本当にフッ化水素酸で遺体を「分解」できるのか?

ウォルターは遺体を「処分」するのにフッ化水素酸を使いましたが、実際には、フッ化水素酸で人体を溶かしてトイレに流せるレベルにまでするのは、かなり難しいようです。

hydrofluoric-acid
シーズン1エピソード2「新しい相棒(Cat’s in the Bag…)」より(微グロ注意なシーンなのでモザイク入れてます)

フッ化水素酸はそれほど強い酸ではない

「これ実際どうなの?」と考える人は多いようで、質問サイトStack Exchangeには「実際に遺体をフッ化水素で処分することは可能なの?(英語)」という質問がありました。それによると、フッ化水素酸は有毒で腐食性がある「怖い」酸ではあるものの、それほど「強い」酸ではないそうです。通常は薄めてガラスや陶器にエッチングする用途に使われるもので、もし人体に使ったとしても組織を壊すのにもかなりの時間がかかるし、時間をかけても排水に流せるような状態にはならないだろう、とのことでした。

MythBustersの実験でも「不可能」判定

また、都市伝説や映画のエピソードなどを検証する番組「怪しい伝説MythBusters)」では、2013年に「ブレイキング・バッド特集」が放映され、実際に酸で遺体やバスタブ、天井まで溶かすことができるのかを検証しました。

実験では大掛かりなセットを組んでバスタブも準備。人体ならぬ豚肉を溶かすために硫酸+ある化学物質(この物質が何かについて不明)を、ウォルターが使用した量の3倍も使用したようです。結果、ものすごい煙と臭いと熱が出て、肉は溶けて真っ黒いドロドロした物体になったものの、かなりの部分が残っていました。また、鋳鉄製のバスタブや天井は全く溶けず、そのままの状態だったので、実現は不可能と判断されたようです。

MythBustersの「ブレイキング・バッド特集」のイントロ部分。ヴィンス・ギリガンとアーロン・ポールが出演しています。Breaking Bad Special Intro | MythBusters | Youtube

一方、現実に酸を使用した例がいくつもある

ところが、現実は実験とは違うこともあるようで、実際に殺人事件で証拠を消すために酸を使用した例がいくつもあるようです。

例えば、イギリスのシリアル・キラー、ジョン・ジョージ・ヘイグは「遺体がなければ殺人を犯しても罪にならない」と考え、被害者9人の遺体を硫酸を使って溶かしたようです。残ったのはわずかな骨と入れ歯、胆石だけだったとか。
ジョン・ヘイグ | Wikipedia

また、メキシコでは苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)で300体もの遺体を「処分」した「シチューメーカー」と呼ばれる男が逮捕されています。この男は麻薬組織の遺体処理係で、1体5万円で対立するギャングの遺体を「処分」していたそうです。
300人の遺体を薬品で溶かして処理したという男が逮捕される | Gigazine

つい先月も、フランス トゥールーズで「ブレイキング・バッド」を真似て遺体を溶かそうとした男女が逮捕されていました。
「ブレイキング・バッド」のマネをして遺体を溶かそうとした男女が逮捕される

そして、なんとここ日本で、まさにフッ化水素酸を使用した例がありました。2009年に千葉で逮捕された男が「遺体をフッ化水素酸で溶かして処理した」と供述した例があるようです。
フッ化水素で不明社長の遺体処理 千葉、再逮捕の2人供述 | 47News(記事が削除されました。魚拓

殺人目的で使用された例も

フッ化水素酸は「溶かす」力は弱いものの毒性はかなり強く、また、腐食性は硝酸や硫酸より強いそうです。付着するだけで体に浸透して、カルシウムで結合している部分(骨や組織)をなにもかも破壊していくそうで、心不全や低カルシウム血症を引き起こして死亡する可能性もあるとか。

実際に日本でも、交際を断られた腹いせに同僚女性の靴にフッ化水素酸を塗って殺害を図った男が静岡で逮捕されています。被害者の女性は足の指5本を切断する重傷を負いました。
靴内に薬品、殺人未遂容疑で会社員逮捕 女性重傷 | 日本経済新聞

非常に恐ろしい物質なので、日本では毒物及び劇物取締法の医薬用外毒物に指定されています。
ちなみに、ウォルターが言っているようにテフロン(TFR、FEP)やポリエチレン、天然ゴム、ネオプレンなどは溶かさないそうです。

「ブレイキング・バッド」の化学は意図的に改変されている

というわけで、実際に物語で使用していたような「用途」に向くかというとやや疑問が残るフッ化水素酸ですが、「ブレイキング・バッド」に出てくる化学、特に悪用されそうな化学は微妙な改変が加えられている事が多いようです。DEA(麻薬捜査局)の化学チームや大学教授がアドバイザーとして参加しているそうなので、わざと悪用を避けるためにこのようにしているものと思われます。