ウォルターが精製した毒物「リシン」は本当に危険なのか?

ウォルタートゥコに使おうと準備した「リシン」は、実際ごく少量で死に至ることもある大変危険な毒物だそうです。今のところ解毒剤もないとのこと。

ricin

リシンってどれくらいの毒性なの?

リシンは、かなり強力な毒性を持っています。ウォルターがやったように、リシンはトウゴマの種から精製するそうですが、精製されたものを注射または吸入する場合、成人であれば約1.78mgで死に至るそうです。これはほんの塩ひとつまみ程度の量。しかも現在のところ解毒剤は見つかっていません(予防や阻害の効果があるものはわずかながら発表されているようです。詳細はWikipedia)。また、種のままでもある程度以上の量を食べると死んでしまうそうで、この場合の致死量は成人の場合で4~8粒とも20粒とも言われています。どういう形であれ、人体に入ればかなり危険なようです。

リシンを摂取するとどうなる?

リシンは細胞のタンパク質を合成する能力を阻害する働きがあるそうです。細胞がタンパク質を作れなくなると身体の重要な機能が失われるため、結果的に死に至ることになります。生き残った人でも、恒久的な内臓のダメージが残ってしまうことがほとんどだそうです。

接種後約6時間程度で(1〜2日間全く症状が出ないこともある)、すさまじい嘔吐と下痢に襲われ深刻な脱水症状になり、その後、毒が細胞に作用して腎臓や肝臓、膵臓をダメにしてしまいます。吸入された場合は胃が液体で満たされてしまい、次第に息ができなくなってしまうそうです。いずれの場合も吐き気やひどい風邪のような症状から始まり、ゆっくりと臓器不全に陥り、3〜5日間苦しみぬいた後に亡くなるという恐ろしい毒です。

解毒剤がないため、摂取したことがわかっても、胃洗浄などで効果を薄めるくらいしかできないとか。

肌に付着した場合でも、致命傷にはならないものの、焼け付くような痛みが走るそうです。ジェシーが触れようとした時ウォルターが「触るな!」と言いますが、そのせいだったんですね。

簡単に精製できるものなの?

リシンは、もともとトウゴマからヒマシ油を製造する過程で副産物としてできたものだそうですが、製造にはある程度の化学的な知識が必須で、誰でも簡単に作れるものではなさそうです。それでも、知識があれば精製は可能なため、アメリカ政府はネットから製造方法を撲滅するよう全力を尽くしているそうです。

enhanced-buzz-32107-1374185402-3
ジェシーのセリフがやたらウケてた@海外 via BuzzFeed

原料になるトウゴマは英語ではCastor beanとかCastor oil bean(正確には豆ではない)と呼ばれるそうで、写真を見るかぎり、パッと見は本当に豆みたいです。

ちなみに、ウォルターが「(トウゴマの種から)リシンを抽出する」と言った時、ジェシーが「Rice and beans?」と聞き返していますが、これが海外ではやたらとウケていました。Rice and beans(ライス アンド ビーンズ)はラテンアメリカの定番料理(または同名のレストラン)。

字幕版ではこのセリフは「つまり?」となっていて、その後のウォルターの呆れ顔の意味がわかりづらくなっていますが、吹替版では「ニシンって…魚?」と訳されています。ナイス翻訳。

実際に暗殺に使われたことはあるの?

実際に暗殺に使われた例では、ブルガリアの小説家でジャーナリストでもあったジョージ・マルコフ氏の暗殺が最も有名だそうです。1978年、反体制派だったマルコフ氏は傘に偽装した空気銃で刺され、リシンが血液中に入ったため3日後に亡くなりました。KGBかブルガリア秘密警察によるものとされています。
これについてはウォルターも「70年台後半 ブルガリア人の記者がリシンで暗殺された」と言っていますね。

ホワイトハウスが狙われたことも過去何度かあり、2003年には「堕ちた天使」と名乗る人物が、2013年には別の人物が、それぞれリシン入りの手紙を大統領に送りつけています。

また、最近でも1400人もの人間を殺害できる量のリシンを注文した男が逮捕されています。
関連記事:今週のブレイキング・バッド 【2015/7/18〜24】 – 1400人殺害できる大量のリシンを注文した男

日本でもリシンを使った殺人未遂事件が

日本でも2015年11月に、リシンを焼酎に混ぜて夫に飲ませた疑いで妻が逮捕されるという事件が起きました(ロイターの記事 ※記事が削除されました)。警戒中の警察官が混入に気づいたため未遂に終わったそうですが、一体どこでリシンを入手したんだろう?と思ったら、インターネットでトウゴマを買って、なんと「致死量ぎりぎりで自分で作った」と供述しているようです。ていうか売ってるの!?

焼酎からは同じく猛毒の「キョウチクトウ」の成分も検出されたそうで、「殺すつもりはなかった」という供述にはかなりムリがあるようです。

この事件と「ブレイキング・バッド」の関連に言及している記事もありました。
「リシン」毒殺、ハリウッドドラマに同じ手口 宇都宮市の事件、これをまねたのでは、と話題に | Livedoor News

ちなみにSlateの記事によると、いわゆる「ホームメイド」のリシンの純度は専門知識を持って精製したものに比べるとかなり落ちるため、効果も薄いとのこと。

【UPDATE】 2016年6月にこの事件の初公判が開かれました。判決は7月の模様。供述によるとトウゴマをすりつぶして出た液体を焼酎に混入したようです。精製しなくても危ないんですね…。
日本ではもちろん海外でも記事にもなっていて、英文記事には当然のように「Breaking Bad」の名前が出ています。
Japan begins trial for ‘Breaking Bad’ attempted murder | Tokyo Reporter

ウォルターはどこでトウゴマを手に入れたのか?

劇中ではウォルターがどこで原料のトウゴマを入手したかは描かれてなかったんですが、トウゴマはアメリカでは普通に庭や公園に植えてあったりするそうです。元々アフリカ原産の植物ですが、背が高く見栄えがするため観葉植物として人気で、アメリカでも比較的暖かい南西部では普通に見られるとか。ていうか、それ大丈夫なのか…?と思ったら、日本のウィキペディアにも「公園などの観葉植物として利用されることも多い」とありました…。悪用厳禁!

というわけで、あくまで私の推測ですが、その辺の庭や公園でゲットした可能性が高いのかなと思っています。ネット通販と違って証拠も残らないですからね。また、ウォルターがトウゴマをジェシーに見せたのはウォルターの誕生日(9月)よりあとのことでしたが、トウゴマの花は秋に咲くそうなので、実がなるのは秋〜冬と考えると時期的にも矛盾しないと思います。