双子の殺し屋(トゥコのいとこ)は何故地面を這っていたのか?

S3E1「戻れない道」冒頭で、舗装されていない道を人々が這っていて、トゥコのいとこの双子もその列に加わるシーンがありますが、あの行動、近年メキシコで急激に支持を広げているある宗教に関係しているようです。

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双子や他の人々が這って向かった先には小さくて簡素な聖堂のようなものがありました。祭壇には派手な衣装をまとった骸骨が。

この骸骨、サンタ・ムエルテ(Santa Muerte)と呼ばれる死を擬人化した聖者で、この聖者を崇める宗教(同じくサンタ・ムエルテと呼ばれる)は、近年メキシコやアメリカ、中央アメリカで爆発的に信者を増やしているそうです。英語では主に「死の聖者(Saint Death)」「聖なる死(Holly Death)」などと呼ばれ、他にも「痩せた婦人」や「白い少女」(骨だし…)、「夜の婦人」など、数多くの別称があります。

アウトローに熱心な信者が多いサンタ・ムエルテ

サンタ・ムエルテ像はほとんどの場合女性の姿をしていて、マントのような衣服をまとい長い髪をしています。手には鎌(悪いエネルギーを断つ&希望や繁栄を表す収穫道具でもある)と地球儀(全ての生き物が還る墓 = 大地)を持っていることが多いようです。

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「ブレイキング・バッド」に登場する像も鎌を持っていました。

劇中では反対の手は映らないんですが、AMCの「ブレイキング・バッド」公式ページにあるサンタ・ムエルテを拝む双子の舞台裏写真(11点)を見ると地球儀は持っていないようです(側にある小さな像は持っている)。

見た目は怖ーいサンタ・ムエルテですが意外にも慈悲深く、どんな人のどんな願いでも別け隔てなく聞き入れてくれるのだそうです。例えば「商売敵が死にますように」といった通常の宗教では受け入れられない願いも叶えてくれるとか。また、「夜の婦人」の別名通り、夜働く人を危険や暴力から守ってくれるというご利益もあり。

そのせいなのか、貧困に苦しむ労働階級の若者や、メキシコでは社会からはみ出しがちなLGBTの人々、法律の外で暮らすギャングやカルテルのメンバーから強く崇拝されているようです。もちろん普通の市民や富裕層にも大勢信者がいるようですが、特に熱心なのがアウトローな人たちなのだとか。

だから双子もサンタ・ムエルテにお参りしていたんですね。

ちなみにサンタ・ムエルテ信者の多くはカソリック信者でもあり、他のカソリックの聖者と並べて祀られることも少なくないそうですが、バチカンは「死」を崇めることは神への冒涜であり、「宗教の堕落」「サタニズム(悪魔崇拝)」として強く非難しています。

なぜ道を這っているのか?

沢山の人が舗装されていない道をズリズリ這って行くシーンには驚かされましたが、そもそもなぜ聖堂に行くのに這う必要があるのでしょうか。

これは神に対する謙遜を表す苦行の一種のようです。

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このシーンについて話し合っているIGNのフォーラムでは、実際にサンタ・ムエルテの信者だという人が「普通に立って参拝に行く人も大勢いる」「這う人は深い罪悪感を持ってることが多い」と説明しています。

また、同フォーラムの別のユーザーは「社会学で習った」として、この行為は「死の聖者に礼を尽くし、慈悲を乞う」ためで、双子のように復讐を願いに行く場合は、もし単に立って歩いていけば聖者に「傲慢だ」とみなされ呪いが跳ね返ってくることがある、とも言っています。

この行動はカソリックでも見られるもので、祭壇まで数時間〜数週間もかけて這って行くこともあり、途中で倒れる人や他の人に聖堂まで担ぎ込まれる人もいるそうな。

実際のサンタ・ムエルテ信者さんたちの様子は下の動画をどうぞ。這ってる人もいます。実際には「這う」というより「膝をついて進む」感じですね。

毎月一度の祭りにはサンタ・ムエルテを崇拝する人たちが集まる。Mexico: Worshipping of ‘blasphemous’ Holy Death saint continues | Youtube

また、以下リンク先には実際に這ったり膝立ちで聖堂に向かうカソリック信者さんたちの写真や動画があります。

  • ギリシャ(ティノス島):パナギア・エヴァンゲストリア教会(VICE
  • メキシコ:グアダルーペ寺院(Vimeo)(Youtube
  • チリ:ビルヘン・デ・ロ・ヴァスケス教会(Latin Times
  • ポルトガル:ファティマ大聖堂(GEO pictorial

黒いキャンドルは「復讐」を願うときに捧げる

劇中では、聖堂に着いた双子はまず祭壇に黒いキャンドルとお札を捧げています。

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サンタ・ムエルテに捧げるキャンドルは願い事に応じて色を変えるのだそうで、例えば白は感謝・健康・清めを願う時に使い、赤は愛・情熱、金は財力・成功など、色によっていろいろな意味があるそうです。

劇中で使用されている黒のキャンドルは、復讐・呪い返し・黒魔術からの守護・敵と戦う力などを願う時に使うものだそうでなので、双子が参拝に行った理由を考えると、黒のキャンドルしかないといった感じですね。

とはいえ、一般に一番売れているのは赤や白のキャンドルだそうで、黒いキャンドルはそれほど売れないのだとか。一部の信者が犯罪を犯したりして目立つため「サンタ・ムエルテ信者 = 犯罪者」というイメージが出来上がっているようですが、実際には信者の多くは「普通の人」のようです。

ハイゼンベルクの絵を飾ったのはなぜ?

前出のIGNのフォーラムのユーザー(「社会学で習った」という人)曰く、例えば愛する人を殺した相手に復讐したい時には、祭壇に愛する人が持っていたもの(写真や小物、服、髪の毛など)を捧げ「この人を殺したのが誰か探してください」と祈るそうです。
AMC公式サイトの舞台裏写真でも、壁に子供の写真が貼ってあったりします。

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双子の場合は、祭壇に着くと兄のレオネルがサンタ・ムエルテ像の側にハイゼンベルクの写真を飾っていますが、これは一種の「呪いの儀式」のようです。

余談ですが、サンタ・ムエルテにはお香の代わりにマリファナの煙を吹きかけることがよくあるそうで、上の動画にもそのシーンがありました。なので、AMCの舞台裏写真 最後の一枚(下の写真)でレオネルがムエルテ像に吹きかけているのも、たぶんマリファナだと思われます。

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また、別の写真のキャプションにある祈りの言葉の中に「Santisima Muerte(サンティシマ・ムエルテ)」とありますが、これは「最も聖なる死」という意味で、特に熱心な信者はサンタ・ムエルテをこう呼ぶのだそうです。

双子のブーツの飾り金具 = ドクロの意味は?

このエピソード(S3E1「戻れない道」)の最後の方、国境を越えるトラックのシーンでは、車の修理屋だというお喋りな少年が、双子が履いているブーツの飾りを見た途端黙りこんでいました。

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これは飾りがドクロだったため、この双子がサンタ・ムエルテ信者 = カルテルのメンバー(もしくはヤバい奴)だと気づいた、ということのようです。

ただ、前述のとおり現実の信者は「至って普通の人」が多いので、メキシコでドクロを身に着けているとカルテルの一員だと思われる…なんてことはないようです。

「ブレイキング・バッド」に出演したアルバカーキ出身の俳優グレゴリー・ビズリー ジュニアさん(Gregory Beasley Jr. どの役なのか調べたけど不明)もサンタ・ムエルテの信者だそうですが、Daily Newsに載った写真では首からネックレスのようにサンタ・ムエルテ像を下げています。でもカルテルのメンバーではなさそうですもんね。
グレゴリーさんは「僕の成功はすべて彼女(サンタ・ムエルテ)のおかげ。彼女が僕を清め、道を示してくれた」と語っています。

【UPDATE】 ブーツのドクロを作った会社を発見しました。Brevardというジュエリー会社で、このエピソードよりもあとに登場するドン・エラディオのロザリオやテキーラ「サフィロ・アネホ」の栓もこちらがデザインしたようです。ブーツのドクロはローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズのトレードマークである「スカル・リング」をイメージしたもので、デザインについて「ブレイキング・バッド」製作者のヴィンス・ギリガンと何度も話し合ったとか。オリジナルだったんですねー。

サンタ・ムエルテと犯罪

というわけで、サンタ・ムエルテはギャングやカルテルだけが信仰する宗教ではないのですが、カルテルの大物含むドラッグ関係者の自宅や、ドラッグ取引現場、殺人現場などでムエルテの祭壇や像、写真が見つかることが非常に多いそうです。刑務所でもサンタ・ムエルテは大人気で、多くの独房に小さな祭壇があるのだとか。

メキシコにおいて「サンタ・ムエルテ = 暴力、犯罪」という認識が形成されるきっかけとなった人物は、ガルフ・カルテルのボスの一人、ダニエル・アリスメンディ・ロペス(Daniel Arizmendi López)。ロペスは人質を取り、その証拠に耳をハサミで切り落として家族に送りつけることで有名でしたが、1998年8月に彼が逮捕された際、自宅にサンタ・ムエルテの聖堂があったそうです。
Daniel Arizmendi López | Wikipedia

その後も2010年にカルテルにつながりのある誘拐団に資金を提供したとして信者が逮捕されたり、2012年にもソノラ州で10代の少年二人と50代の女性一人を誘拐・殺害し、血を集めてサンタ・ムエルテへ捧げたとして信者8人が逮捕されています。
Mexico arrests over La Santa Muerte cult killings | BBC

サンタ・ムエルテは映画や海外ドラマの常連?!

犯罪がらみでよく登場する上に見た目のインパクトが強烈なせいか、サンタ・ムエルテは「ブレイキング・バッド」意外にも様々なドラマや映画に登場しているようです。Wikipedia(英語版)によると以下。結構ありますね。

  • クリミナル・マインド S5E19「死を呼ぶ砂漠」
  • デクスター S5(シーズン通して)
  • アメリカン・ホラー・ストーリー:魔女団 S3E13「新たなスプリーム」
  • アメリカン・ホラー・ストーリー:Hotel S5E10「She Gets Revenge」
  • トゥルー・ディテクティブ/ロサンゼルス S2E1「招集」
  • パラノーマル・アクティビティ/呪いの印(映画)
  • ブック・オブ・ライフ 〜マノロの数奇な冒険〜(映画)

 

初めてこのエピソードを観た時「ちょ、なんで這ってんの?」「なにそのガイコツ…」とビビり、観続けてたら理由がわかるのかな?と思ったら最後まで見てもわからなかったというオチでしたが、今回しつこく調べてみて納得しました。

サンタ・ムエルテは有名なメキシコのお盆「死者の日」や古代メキシコの神ミクトランテクートリ内蔵出てる神様)とも関係があるそうで、調べれば調べるほど興味深かったです。なにより何でも叶えてくれるというのがいいですねー。サンタ・ムエルテ像いっこほしい。でもテキトーな心がけで持ったら呪い返しくらう予感…。