ガス・フリングは過去ピノチェト政権となんらかの関係があった

シーズン4エピソード8「ガスの過去」ではタイトル通りグスタボ・フリング(ガス)の過去の一端が明かされました。依然として彼が何者で、チリで何があったのかは不明瞭なままですが、ピノチェト政権となんらかの関わりあった可能性が示唆されています。

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表の顔はファストフード店の紳士的なオーナー、裏の顔はビジネスに徹する冷酷な麻薬王。ガスがゲイルの件でDEAに聴取されるシーンでは、その謎に満ちたガスの経歴が一部明かされました。DEAが調べて判明しているガスの経歴は以下。

1986年ピノチェト政権下のチリからメキシコに移住
1989年アメリカのビザ取得
(聴取でハンクは「数年後」とだけ言っているが、のちにマイクが「89年以前にあんたがしたことを奴に暴けるとは思えない」と言っているのでビザ取得は89年)
1994年マキシミノ・アルシニエガ奨学金設立
(物語中、この会話が行われている時点では2009年。15年前に設立したと言っているので94年)

ところがこれ以前の(チリにいた頃の)記録が全くないため、ハンクはグスタボ・フリングという名前は偽名ではないかと疑っています。

それに対してガスは「ピノチェト政権では記録管理がずさんだった」と言い、ゴメスも「経歴に問題がある人間なら(アメリカに)帰化できない」と反論。それでもハンクは「9・11(2001年)以前は審査は厳しくなかった」とさらに疑問を呈していますが、ハンク以外は皆ガスの言い分を信じ、納得したようです。

ドン・エラディオがガスを生かした理由は「何者か知っているから」

しかし、エピソード後半の回想シーンで、メキシコの麻薬カルテルのボスドン・エラディオはガスの友人マックスヘクターに殺害させた後、ガスを生かした理由について、こう言っています(※英語字幕。このシーンで実際に話しているのはスペイン語)。

The only reason you’re alive and he’s not, is because I know who you are. but understand, You are not in Chile anymore.
don

日本語では吹替・字幕ともドンがガスを生かした理由は「商売の素質があるからだ」と訳されていました。が、英語字幕では「なぜなら俺はお前が何者か知っているからだ」となっています。

ヘクターはガスの知り合いを「総統」と呼んでいる

さらにシーズン3エピソード7「ハンクの苦しみ」冒頭のティーザーでは、メキシコでのヘクターとトゥコのいとこたち(少年時代)が描かれていますが、そのシーンでヘクターは誰かと電話でガスのことを話しているようです。

I don’t care who he knows. We’re supposed to trust him with our products. Big man, Big Generalissimo! Big fry cook is more like it. The “Chicken Man”.
hector

日本語吹替では、「骨があろうが知ったことじゃない。あんな奴にうちのブツを任せられると思うか。大物だかなんだか知らんが、揚げ物担当にしか見えない。ただの”チキン野郎”だ」、字幕では「骨があろうが」は「いくら人脈があっても」となっています。どちらもガスの背後に大物がいることを示唆していますが、英語字幕によればその大物は「Big man(重要人物), Big Generalissimo(総統 = 軍の最高責任者)」のようです。

このヘクターのセリフと、ドン・エラディオがガスを生かした理由から、海外ではガスはピノチェトとなんらかの関係があるのではないか?と話題になっていました。

ピノチェト政権とは

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Augusto Pinochet (1974)
via Wikimedia

ピノチェト政権とは、アウグスト・ピノチェトが主導した軍事クーデターによって1973年にチリに樹立された軍事政権のこと。社会主義だった前アジェンデ政権を民主主義国家であるアメリカの支援によって倒したクーデターで、政権樹立後は左派の極端な弾圧に伴う大虐殺・拷問・追放や思想統制を行ったそうです。その極端な強硬姿勢により「独裁者」とも呼ばれました。(Wikipedia)。

ピノチェトは1974年には大統領に就任し90年まで政権を主導しましたが、劇中ガスがメキシコに亡命したとされる1986年には、すでに政権は末期状態だったようです。

ガスとピノチェトの関係は?

では、ガスとピノチェトはどういう関係だったのか?劇中では明らかになっていません。ただ、人種的観点から血のつながりがあるという線は薄そうです(ガスはアフロ・チリアン = アフリカ系チリ人なので)。ピノチェトが創設した秘密警察「DINA」のメンバーだったのかもしれませんし、軍に属してピノチェトのために働いていたのかもしれません。いずれにしても、ドン・エラディオはもしガスを殺せば面倒なことになる(メキシコ・カルテルにもなんらかの危害が及ぶ?)と考えたようですので、ある程度の地位にいたことは間違いなさそうです。

ガスを演じたジャンカルロ・エスポジートがこの説は正しいと発言

ファンの間では早くから「もしかしたらそうなんじゃないか」と言われていたこの「ガス-ピノチェト説」ですが、ガスを演じたジャンカルロ・エスポジート氏自身が、この説が正しいこと、製作者ヴィンス・ギリガンのアイデアだったことを明かしています。

シーズン4終了後の2012年の1月、米掲示板RedditのAMA(Ask Me Anything)にエスポジート氏が登場した際、ファンから「ガスの過去について何か聞かされているか」と聞かれ、回答として以下のビデオ・メッセージをYoutubeにアップしています。この動画でエスポジート氏は、ドン・エラディオの「お前が何者か知っている」というセリフはガスとピノチェト政権とのつながりを示唆していること、このアイデアはギリガンのもので、エスポジート氏自身はシーズン4エピソード3あたりを撮影中に、このことについて聞かされたと話しています。

Gus’s Backstory | Youtube

とはいえ、ガスの過去についてギリガンから詳細な説明があったというわけではないようです。エスポジート氏は「(ガスは)ある時期司令官(General)だったかもしれないし、副官(Lieutenant)だったかもしれないし、多くの人を殺したかもしれない。それとも、軍の英雄だったのかもしれない」と言っています。

否定的な意見もある

製作者サイドからお墨付きが出たのでこの説が正しいのは間違いないんですが、一部では否定的な意見もあるようです。

ひとつは、ピノチェト政権はネオ・ファシズム(=反移民主義・ナショナリズムが強い)だったので、アフロ・チリアンであるガスが重要な地位に抜擢されたとは信じがたい、というもの。もうひとつは、ピノチェト政権はメキシコにはほとんど影響力がなかったことから、メキシコにいるドン・エラディオがガスを殺すことによって不利益を被ることはないんじゃないか、というもの。

どちらもなかなか説得力のある反論ですが、個人的には製作者がそうだって言ってるんだからそれでいいんじゃないかなーと思います。あくまでフィクションだからね!でも、ああでもない、こうでもないといろいろな意見が出ているのを見ると、「ブレイキング・バッド」放送当時いかに盛り上がっていたのか垣間みえて楽しいです。上に置いてるエスポジート氏の動画のコメント欄も熱いですよ。