ファイナルシーズン(シーズン5の後半8話)の最初のエピソード「汚れた金(Bloody Mone)」はケビン・コルダスコ(Kevin Cordasco)という人物に捧げられています。

ケビンって誰?
ケビンとは、9歳の頃から7年もガン(神経芽細胞腫)と闘い続け、2013年3月に若干16歳という若さで亡くなった少年の名前です。彼は「ブレイキング・バッド」の大ファンで、いつも友達と一緒にすごーく真剣にドラマを観ていたとか。
だんだん具合が悪くなっていくケビンに、ある日母親の友人でケビンの名付け親でもある女性が、何かしてほしいことはないかとたずねたところ、ケビンの答えは「ブレイキング・バッドのスターに会いたい」だったそうです。それはケビンのバケツリスト(生きているうちにやり遂げたいことのリスト)のひとつでした。
女性にはたまたまエンタメ業界に勤める友人がいたので彼女に相談してみたところ、偶然にも彼女の同僚の夫がソニー・ピクチャーズ・テレビジョンに勤めていて、ブライアン・クランストンに事情をメールをしてくれたそうです。すると、なんと次の日すぐにクランストンのアシスタントから返信があり、数日経たないうちに、クランストンが奥さんを連れてケビンに会いに病院に来てくれたそうです。

「息子がどんなに喜んだか想像もつかないでしょう。その事ばかり話すんです」とケビンのおかあさん。「ケビンはブライアンが大好きでした。彼はすごく”普通”で、セレブっぽい振る舞いもしない、親切で愛情深い人だった。彼はケビンに自分は特別なんだと思わせてくれました。ケビンがクランストンにメールをすると、必ず30分と開けずに返事をくれていたんです」。
のちにクランストンは再度アンナ・ガン(スカイラー役)とボブ・オデンカーク(ソウル役)を連れてケビンの自宅を訪問しています。
最終話にあの人物が出てきたのはケビンのお陰
ケビンに会ったクランストンは、彼がいかに物語を深く理解しているかを知って感銘を受けたようで、製作者ヴィンス・ギリガンにも会うことを勧めたそうです。
そこで、ギリガンはなんとトルトゥーガ※の首(!)をプレゼントに携え、ケビンに会いに行きました。ギリガンもケビンを気に入ったようで、のちにライターズ・ルームにも招待しています。
※メキシコ・カルテルに裏切りがバレて亀の甲羅に首を乗せられちゃった人
これ以降最終話に関わるネタバレあり!未見の方は注意
ケビンの物語に対する理解を高く評価したギリガンは、ケビンに「(これからの展開で)何が観たいと思う?」と聞いてみたそうです。すると、ケビンの返事は意外にも「グレッチェンとエリオット」でした。
「ケビンは16歳という年齢にもかかわらず、彼らがウォルターの人生に与えたインパクトを理解していたんだ」とギリガン。ケビンの言ったことがヒントになり、グレッチェンとエリオットの二人は重要な役で最終話に再登場することになったそうです。
ギリガンはケビンに結末がどうなるか教えようとさえしたが、ケビンが断った
ギリガンはケビンのことをよほど気に入ったのでしょう、「他の誰にも言わないこと」を条件に、サイン入りのファイナル・エピソードの脚本を渡そうとさえしたようです。が、ケビンは申し出を断りました。理由は「自分自身の目で見たいから」と「誰かに話しちゃうしれないから」だったそうです。
ケビンのおとうさんは、ケビンはウォルター・ホワイトの境遇を本当に理解していたと思う、と語っています。「最初のエピソードを見ただけで、ケビンが主人公に共鳴していることがわかったよ。主人公も末期ガンと診断されてから彼の人生を生き始めた。ケビンは主人公が後ろを振り向かず前に進むところに共感していたと思う。実際ケビンはガンのせいにして何かを諦めたことは一度もなかった」。
その後、アルバカーキの撮影現場にケビンを招待してカメオ出演してもらう計画もあったようですが、ケビンの容態が悪化したため実現されませんでした。そして、ケビンはファイナルシーズン(シーズン5後半8話)の放映を待たずに息を引き取りました。
子供が亡くなることほど悲しいことは世の中にそうそうないと思います。ご両親は、ケビンが亡くなった後もケビンの友人を家に呼んで、最後まで「ブレイキング・バッド」を見続けたそうです。「それがケビンの望むことだろうからね」。