シーズン5前半の放映後、「ブレイキング・バッド」の熱心なファンが「ウォルターは殺した相手の特徴を受け継いでいるのではないか?」という仮説を立てて大変話題になったようです。
最終話まで観終わっていない方、以下ネタバレ全開です!注意!
確かにウォルターは、殺した相手の立場を次々に乗っ取ってのし上がってきました。クレイジーエイトを殺して彼と同等の立場(ディーラー)に収まり、トゥコを殺して(手にかけたのはハンクですが)格上のディーラーになり、ガスを殺してドラッグ帝国を築くものの、帝国の「支配」に邪魔なマイクを殺し…。
でもこの「仮説」が言っているのはそういう意味ではなく、もっとずーっと具体的です。ひとつひとつ確認してみました。
クレイジーエイトを地下室に監禁していた時のこと、クレイジーエイトがパンの耳をわざわざ取って食べるのを見たウォルターは、その後はパンの耳を切ってから彼に手渡していました。
その後のエピソード(シーズン3)では、ウォルターは自分の朝食やラボに持っていくお弁当のパンの耳を切っています。念のためクレイジーエイト以前はどうだったのかな?と見てみたらS1E2のホワイト家の朝食では耳の付いたままのパンが出ていました。
S1E2「新しい相棒」より。ちまちまパンの耳を取るクレイジーエイト
S3E6「追いつめられた二人」より。S3E1にもパンの耳を切るシーンがあります
ガスを殺したあと、ウォルターが受け継いだ一番大きな特徴は「冷酷さ」かも。シーズン5以降、ウォルターは人を殺すことや今まで殺してきたことに対して良心の呵責を感じなくなったようです。トッドが少年を殺した後に口笛を吹いていたり、ガスの元手下でマイクの同僚だった10人を殺しても何も感じていないようでした。
でも、さらに細かい特徴(?)もガスから受け継いでいるようです。
ガス、マイク、ジェシーの3人でメキシコに行き、ガスがドン・エラディオたちを殺したエピソード(S4E10「復讐の杯」)で、ガスは飲んだ毒を吐き戻しに手洗いに行きますが、この状況でもちゃんと床にタオルを敷いてから膝をついていました。
ガス殺害後のエピソードでは、ウォルターも同じように床にタオルを敷いています。
これについては、ウォルターが実際にガスの仕草を目にしたわけではないので「無意識に真似している」とも言えないんですが、ファンの間では「脚本的には意味がある(意図的に同じような仕草をさせている)んじゃないか」と言われていたようです。
S4E10「復讐の杯」より
S5E9「汚れた金」より。画像わかりにくくてすいません
また、ガスと似たような態度をとっているシーンもありました。
シーズン4でウォルターがガスの表の職場(ロス・ポジョス)に「仕事」の話をしに行った時、ガスはウォルターの深刻な顔を無視して普通の客にするように笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えていました。
シーズン5では、リディアがウォルターの表の職場(洗車場)に深刻な顔でやってきますが、この時ウォルターはガスと同じように落ち着き払って笑顔で対応しています。以前のウォルターでは考えられなかったことです。
さらに、シーズン5第1話冒頭では、ウォルターはガスが乗っていたのと同じ車(ボルボ)に乗っています。ただ、ふたつのボルボは同じ型ではないようですし、最終話でウォルターが盗んだものだった(ウォルター自身の車ではない)と判明するので、やや深読みかも?
S3E6「追いつめられた二人」より。ガスのボルボは2001 Volvo V70
S5E16「フェリーナ」より。こちらは1990 Volvo 240 DL
もちろん、マイクからもいろいろ引き継いでいるようです。
シーズン4「生き地獄」で、マイクが飲んでいるバーにやってきたウォルター。マイクに酒をおごろうとバーテンダーに「彼にもう一杯頼む。私にも氷なしで」と言っています。この時マイクはウィスキーをロック(氷あり)で飲んでいます。
その後、ハンクの家でウィスキーを勧められたウォルターは「ロックか?」と聞かれて「ああ、ロックで」と答えています。
S4E2「生き地獄」より。「彼にもう一杯頼む。私にも氷なしで」
S5E8「完璧な静寂」より。「ロックか?」「ああ、ロックで」
上のウィスキーのシーンの続き、ガスを殺そうと持ちかけるウォルターにマイクは「お前の勝ちだ。(略)素直に受け取るようにしろ」と言っています。英語では「Learn to take yes for an answer」。
シーズン5では、自分がウォルターに「消される」のではないかと心配したリディアが事業拡大を持ちかけた時、「リディア、君の提案を受ける」と言っていますが、これも英語では「Learn to take yes for an answer」。マイクが言ったのと全く同じです。OKを出したのにまだ心配そうなリディアに対して「(わかったと言ったのを)素直に受け取れ」と言ってるんですね。
「Take yes for an answer」というのは英語でもあまり一般的な言い回しではないようで(たぶん)、検索したら某ビジネス書のタイトルと「ブレイキング・バッド」関連ばかり出てきました。
ちなみにウィスキーを「ロックで」というシーンも、この「素直に受け取れ」というセリフも、マイクを殺した直後のエピソードに出てきます。
余談ですが、マイクとウォルターだけでなく、全く同じセリフを別のキャラクターが言っている場面が他にもありました。シーズン2ではトゥコがウォルターに「一緒にガッポリ稼ごうぜ(We’re gonna make a lot of money together)」と言っていましたが、シーズン5ではリディアが全く同じセリフを言っています。
S2E1「737」より。「一緒にガッポリ稼ごうぜ」
S5E8「完璧な静寂」より。「一緒に大金を稼ぎましょう」
S5E16「フェリーナ」
マイクの影響の続き。
最終話でエリオットにナイフを向けられたウォルターは、「私とやりあう気なら、それじゃ小さすぎる」と言いますが、このセリフも言い方も「いかにもマイクだ!」と指摘した人が少なからずいたようです。
でもこれ「マイクから受け継いだ」…かなぁ…?と思いつつ確認したら、確かにこの時のウォルターの声の調子が、わざとか!ってくらいマイクに似てるのでぜひ観てみてください(英語でね)。
他にも、特徴や癖ではないものの、ウォルターが殺した相手の影響を少なからず受けている例としてこんな指摘もありました。
ウォルターの帝国崩壊のきっかけとなった本「草の葉」は、ウォルターが殺した(実際に手を下したのはジェシーだけど)ゲイル・ベティカーのものでした。
他人に見つかれば大変なことになるはずの本をずっと手元に置いておいてたんですよね…。トッドがバイク少年を殺したあと、タランチュラを持って帰ったのと同じ理由かもしれません。
また、ウォルターが轢き殺したガスの手下のディーラー二人からは「子供を利用する」という部分を引き継いだんじゃないか?と言われたりしてました。
確かにトーマスの事件があった頃のウォルターであればブロックにあんなことをしないかもしれませんが、正直これはさすがにこじつけだよね?…と思いつつ、一応こういう指摘もあるということで。
最初に誰がこの「仮説」を言い出したのかはハッキリしませんが、私が探してみた限りではこのサイトが一番古いようです(←【UPDATE】サイトまるごとなくなったみたいです…)。ただしメディア等に取り上げられて話題になったのは、細かい具体例を挙げたこの投稿。その後他のファンたちが「そういえばこれも」「これもこれも」と具体例を持ち寄ったようです。
私が初回観たときに「あれっ」と思ったのはクレイジーエイトの件だけでした。なかにはややこじつけ感が強いものもありますし、殺した相手全てに当てはまることでもないようですが、海外の熱心なファンの鋭い観察眼にはいつも驚かされます。